祭り紹介

祭り紹介者

岳の幟保存会 広報担当 倉沢 晴之介(くらさわ はるのすけ)さん

「約500年間、別所温泉地区の人たちが大切にしてきた祭りで、国の選択無形民俗文化財に指定されています。担い手の高齢化や気候の変化により昔のやり方で続けていくのは難しくなっていますが、今の時代に合う形で祭りを盛り立て、外に向けて魅力を発信していきたいです。」

(インタビュー日:2019年11月12日)

歴史全国で2番目の少雨地域に伝わる雨乞い行事

シシゾウ:岳の幟の起源を教えてください。

倉沢さん:岳の幟は、上田市の別所温泉地区に伝わる雨乞い行事です。塩田平(しおだたいら)と呼ばれる別所温泉の一帯は全国で2番目に雨が少ない地域といわれ、昔から水不足に悩まされてきました。言い伝えによると室町時代の永正元年(1504)、大干ばつに見舞われた地区の人々が霊岳とあがめられる夫神岳(おがみだけ)の頂上に登って雨乞い祈願をしたところ、恵みの雨が三日三晩降り続き、田畑の農作物はよみがえりました。その御礼として、夫神岳の山頂に雨をもたらしてくれた九頭竜神をまつる祠を建て、各家で反物を織り、幟を奉納したのが岳の幟の始まりと言い伝えられています。現在、雨乞い行事とともにささら踊りと三頭(みかしら)獅子舞も奉納されます。これらの芸能は本来、岳の幟の前日に行われる祇園祭の出し物でしたが、昭和初期のころから岳の幟と同日に行われるようになりました。

シシゾウ:幟を奉納するのはなぜですか?

倉沢さん:昔、反物は高価だったので、感謝の気持ちを示すのにふさわしいとされました。また、幟は竜神の姿を模しているとされ、山頂に奉納した反物を竹竿にくくりつけて幟に仕立て、麓まで担いで降りることで竜が下ってくる様を表現したともいわれています。
かつての幟は長さが三丈ほど(約11メートル)でした。現在は長さが約4~5メートルの布を葉のついた青竹に取り付け、さらにその青竹を持ち手の竹にくくりつけます。
幟は行列で担ぐだけでなく町中にも立てて飾られるので、総数は200本以上になります。幟用の布と竹竿は別所温泉の4地区が分担して用意します。布の色柄は自由です。人気があるのは和風の柄ですが、最近はアニメのキャラクター柄もよく見かけます。昔からの言い伝えで、幟に用いた布で着物を作って着ると無病で過ごせるとされています。竹竿の青竹は若い竹をそのまま用いますが、持ち手の竹は頑丈にするため1年以上乾燥させています。最近は近隣の山で良い竹を見つけるのが難しくなっていて、竹竿を用意するのも一苦労です。

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みどころ夜明け前に山頂へ。日の出を待って竜神様に布を奉納

シシゾウ:祭り当日の朝は早いそうですね。

倉沢さん:午前3時過ぎ、九頭竜神に幟を奉納する一行は布と竹竿を持ち、山頂に向けて出発します。奉納の役は当番制で、別所温泉の4地区が回り持ちします。現在は9合目まで軽トラックで登り、そこから青い竜が描かれた幟を先頭に山頂へ向かいます。山頂に着くと火を焚き、お神酒をいただきながら夜明けを待ちます。日が昇った午前6時、参拝の儀式は始まります。九頭竜神の祠に布が供えられ、神職が祈祷をあげ、地区の安全と無病息災、五穀豊穣を祈願します。儀式が終わると、奉納した布は竹竿にくくりつけられて幟になります。その幟を担いで一行は徒歩で山を下ります。麓では別所神社の氏子総代や地区の幟の担ぎ手たちが待機していて、下山してきた一行に合流します。さらに、ささら踊り、三頭獅子舞、笛、太鼓の一団も加わり、50本前後の幟を中心とする隊列が別所温泉の町中を練り歩きます。
ささら踊りと三頭獅子舞は道中、4つの地区にそれぞれ設けられた踊り場で奉納の舞いを披露します。行列のゴールは小高い丘にある別所神社で、そこの境内で最後の奉納舞いが披露され、行列は解散します。

シシゾウ:倉沢さんは夫神岳山頂の儀式に参加されたことはありますか?

倉沢さん:1回あります。前日の祇園祭で神輿を夜遅くまで担いでいたので早起きするのは大変でしたが、空気が澄んでいる山頂で夜明けを待つのは気持ち良かったです。そのとき、不思議な体験もしました。儀式で神職の方が祝詞を上げたとき、それまで天気が良かったのにいきなり突風が吹きつけ、次の瞬間、雨が降ってきました。山頂の独特な雰囲気もあいまって「神ってるな」と思いました(笑)。雨は下山のときにはやみ、行列と奉納舞いは支障なくできました。過去をさかのぼっても、この祭りは雨に降られることは滅多にありませんが1~2日後に必ず雨が降ります。雨乞いのご利益は本当にあるのかもしれません(笑)。

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注目ポイント可憐なささら踊りと勇壮な三頭獅子舞が競演

シシゾウ:ささら踊り、三頭獅子舞について教えてください。

倉沢さん:ささら踊りは、地元の小学3年生から6年生までの女子児童約30名が舞います。牡丹の造花をあしらった花笠に華やかな色柄の浴衣姿で竹のささらを軽やかに鳴らして元気に踊る姿はとてもかわいらしいです。
三頭獅子舞は上田地方に伝わる獅子舞で、笛、太鼓に合わせて青面の雄獅子2頭が赤面の雌獅子を巡って激しく争います。舞に用いられるのは獅子ならぬ竜の頭で、上田地方でも珍しいです。踊りは勇壮で迫力があり、3頭のコンビネーションも見事です。三頭獅子舞を演じるのは「岳の会」という地元の伝統芸能伝承団体で、若手が獅子舞を舞い、ベテランが笛を吹きます。メンバーはこの日のために1年を通して踊りと笛を稽古しているので、日ごろの研鑽の成果をぜひご覧いただきたいです。

シシゾウ:幟行列や奉納舞いを見るのにおすすめのスポットはありますか?

倉沢さん:別所温泉を代表する外湯で奉納舞いも行われる石湯付近は、昔ながらの温泉街のたたずまいと華やかな幟との取り合わせが情趣満点です。写真を撮るなら、奉納の一行が夫神岳を下りてきて、幟の集団と合流する付近がおすすめです。夫神岳を背景に緑に包まれた細い山道を極彩色の幟が列を作って降りてくる光景はSNS映えして、カメラマンの方にも人気です。奉納舞いはどこでご覧になっても内容はほぼ一緒ですが、別所神社は広々とした境内で神楽殿を背景に踊るので、町中の踊り場とは違った雰囲気が味わえます。
見るだけではなく幟を持ってみたいという方は、行列が通りかかったとき、幟の担ぎ手に声をかけてください。短い時間でも幟を持って歩くと祭りに参加した気分を味わっていただけると思います。

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ふるさと自慢甘めのつゆと馬肉の相性抜群。別所温泉名物、馬肉うどん

シシゾウ:別所温泉の食の名産品を教えてください。

倉沢さん:上田地方でよく食べられる食材のひとつが馬肉です。馬肉料理といえば馬刺しが有名ですが、別所温泉の名物は馬肉うどんです。馬肉と甘辛いつゆの取り合わせは絶品です。美味(おい)だれ焼き鳥は上田市発祥のご当地グルメで、焼き鳥に美味だれと呼ばれるにんにく醤油だれがかかっています。

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メッセージ別所温泉にお泊りになって岳の幟をお楽しみください

倉沢さん:約50本のカラフルな幟が隊列を組んで別所温泉の街並みを練り歩く姿は圧巻です。写真映えもしますし、ぜひ見に来ていただきたいです。祭りの開始は早朝で、前日は祇園祭の神輿も出るのでぜひ泊りがけでお越しください。旅館の中から行列をご覧いただけますし、朝食をのんびり召し上がっていただいてから写真映えするアングルを探しながら温泉街を散策していただくのも楽しいと思います。

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※祭り紹介者 岳の幟保存会 広報担当 倉沢 晴之介(くらさわ はるのすけ)さんにお応えいただいたインタビューをもとに、記事をまとめています。

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