愛媛県西条市で10月15日・16日に開催される「西条まつり」は、約80台の壮麗なだんじりとみこしが華やかな時代絵巻を繰り広げる秋祭りです。西条市で代々だんじりを製作し、現在では地域で唯一のだんじり大工として活躍されている石水公文(いしみずひろふみ)さんに、「西条まつり」の見どころをお聞きしました。
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シシゾウ:「西条まつり」はどのような祭りですか?
石水:「西条まつり」は、西条市内の各神社で行われる秋季大祭の総称ですが、地元でだんじりと呼んでいる屋台が出る伊曽乃(いその)神社と石岡(いわおか)神社、太鼓台(たいこだい)がでる飯積(いいずみ)神社の祭礼を指します。そのうち、最も規模が大きいのが伊曽乃神社の祭礼で、氏子の各地区から約80台の屋台が奉納されます。屋台の出る祭りは全国に数多くありますが、ひとつの神社の祭礼で、これだけの数の屋台が奉納されるのは西条以外にないのではないかと思います。
シシゾウ:だんじりの出る祭りが始まったのはいつ頃ですか?
石水:伊曽乃神社の宝物庫に『西条花見日記』という江戸時代の文献が保存されています。その日記には、西条藩藩主の松平家の殿様が、仙台藩の伊達氏と祭り問答をしたとき、伊曽乃神社のだんじり祭りの様子を絵巻物にして伊達の殿様に差し上げたことが記されています。その記述が書かれたのが宝暦年間(1751~1763)で、その時点ですでに祭りは100年近く続いていると書かれているので、300年前には祭りが行われていたと思われます。
シシゾウ:西条のだんじりは、どのような特徴がありますか?
石水:全国各地のだんじりは四つ車がつき、曳いて動かすのが普通ですが、西条のだんじりは、舁き棒(かきぼう)で担ぎ上げるところが一番の特徴です。だんじりを担ぐ人間は舁き夫(かきふ)と呼ばれ、10~15人の舁き夫が500~800kgあるだんじりを担ぎます。だんじりは移動するとき、本体を揺らすようにしながら一歩一歩進みますが、神様の前など特別な場所では、だんじりを頭の上に高く持ち上げる「差し上げ」という独特な担ぎ方をします。普通に担ぐときは、だんじりの土台の上部を持つのですが、差し上げのときには、だんじりの最下層を持ち、さらに、それを腕の力だけで高々と掲げます。だんじりそのものの高さが5m近くあるので、差し上げを行うと高さが7m近くなり、迫力があります。この「差し上げ」を何台かのだんじりで競って行うことを「かきくらべ」と言います。担ぐだんじりも「差し上げ」もおそらく他に類がないと思います。
「西条まつり」には、このだんじりの他に、「みこし」と呼ばれる屋台が4台登場します。お隣の新居浜の祭りに登場する太鼓台※とスタイルがよく似ていますが、人の背丈ほどもある大きな木製の車輪が2輪ついていて、押したり曳いたりして動かすところが西条独特です。
豪華な金糸の刺繍が全体に施されたこのみこしを動かすときは、2本のつき棒に30人程の舁き夫がとりつき、さらに、80人近くの人間が縄で引っ張ります。みこしで、だんじりの「差し上げ」に相当するのは、「練り(ねり)」と呼ばれる豪快な走り込みです。長いときは200~300mの距離を一気にダーッと走って、グッと回り込み、左右へ大きくうねって見せてから反対側に走っていきます。ちょうど波が寄せては返す感じで、だんじりのかきくらべ同様、大迫力です。
※太鼓台:屋台の一種で、積んだ太鼓の音に合わせ、担いで練り歩く。瀬戸内海沿岸を中心に西日本に多く見られる。
シシゾウ:だんじり本体の見どころはどのようなところですか?
石水:だんじりの四方を飾る透かし彫りです。彫られている絵柄は時代絵巻になっていて、だんじりごとに源平合戦、太平記、太閤記、神話などを題材に取り上げています。二層、三層の欄干に組まれた彫り物は、ずっと見ていくと起承転結のあるひとつの絵物語になっているので、歴史の好きな方だったら「これはどこの場面だな」というのを考えながらご覧になるのも楽しいのではないかと思います。
もう一点、注目していただきたいのは提灯です。だんじりには約100個、みこしには約200個の提灯が飾られます。この提灯の灯りは、伝統を重んじて、ずっとろうそくが使われています。電球と違って、ろうそくの灯りは、練りなどで屋台を揺らすと、ポッポッと独特な光の揺らぎがあって、とても幻想的です。
屋台の提灯のろうそくに火をともすのは子供たちの役目です。「西条まつり」は、だんじりやみこしを盛り上げるために、子供からお年寄りまで氏子全員が力を合わせるところが最大の魅力だと思うのですが、ろうそくの灯りひとつにも、氏子たちのお手伝い精神が発揮されていていいことだと思います。
シシゾウ:だんじりは、どのくらいもつものですか?
石水:だんじりは一度作ると100年もつと言われていますが、150~160年前に作られて、現役のだんじりもあります。ただ、年月が経つと、どうしても傷んでくるので、定期的に修理が必要ですし、傷みがひどい場合は新調ということになります。私の家は代々だんじり大工をしてきて、今ではたった一軒の専業大工になったので、近年、だんじりが新調されるときはほとんど製作を任せていただいています。一昨年、私の祖父が昔作っただんじりが古くなったということで、新調の依頼が来ました。そのとき、リニューアルを記念して、その地区の皆さんが祭りをしてくださったので、80歳で現役棟梁の父も私も非常に感激しました。
石水:祭りは、10月15日早朝に神社の御神輿が出る宮出しに始まり、10月16日の夕方に御神輿が神社に戻ってくる宮入りに終わります。祭り前日の14日は宵宮で、だんじりに提灯を取り付けるなどの準備をしてから、祭りを触れ回る意味も込めて、夕方から夜にかけて、それぞれの地区をだんじりが運行します。夜が更け、時計が12時を回って日付が変わると、各地区のだんじりは三々五々、伊曽乃神社を目指して移動を始めます。御神輿が出るのは朝5時なのですが、待ちきれないだんじりは、真夜中に「よいやさ」の掛け声も勇ましく神社の石段を駆け上り、早々と神社に集まってきます。早朝にも関わらず、境内は、だんじりと舁き夫と見物人で身動きがとれないくらいにぎわいます。5時前には、4台のみこしが境内に豪快に走り込んできて、さらに場を盛り上げます。
5時になると、御神輿が境内に登場します。御神輿が神事を修め、市中巡行のために神社を出発するのをお見送りすると、だんじりとみこしは自由行動になります。そこで、それぞれの地元に戻って、町内を運行して厄払いをしながら「お花」と呼ばれるご祝儀を集めます。その間、御神輿は、1日かけて氏子地区の半分を回って各地で神事を修め、夜は神社に戻らず御旅所で一晩を過ごされます。
翌16日は、だんじりとみこしは統一行動をとります。朝5時に御神輿が御旅所を出発するので、それまでに全てのだんじりとみこしが御旅所に集合し、御神輿が出立するのを見送ります。それから、だんじりとみこしは、御神輿の先払いとして、昔から決まっている屋台番号順に整然と並んで運行します。その行列は、全長2kmに及びます。御神輿は、市内の目抜き通りを通って前日回らなかった氏子地区の残り半分を回り、前日同様、決められた場所で神事を修め、最後に加茂川を渡って、神社に戻ります。
シシゾウ:16日の運行で、見どころはどういうところですか?
石水:御神輿が神事を修める神楽所などで、だんじりとみこしが集まり、かきくらべと練りを繰り広げるところです。だんじりが3~5台集まって、一斉に天に放り上げるようにだんじり本体を高く差し上げたり、左右や斜めにユッサユッサ揺らしたりしているところに、みこしが豪快に走り込んできて一緒に練るところなどは、「西条まつり」ならではの見ものだと思います。
特に見せ場として観客に人気があるのは、御神輿が出発する御旅所、旧西条藩陣屋跡で御殿前と呼ばれる西条高校正門前、隣地区の飯積(いづみ)神社の太鼓台が御神輿を出迎える玉津、御神輿の「川入り」が行われる加茂川河川敷の4ヵ所です。
シシゾウ:「川入り」ではどのようなことが行われるのですか?
石水:御神輿が加茂川を渡って対岸の伊曽乃神社に帰っていきます。この「川入り」は祭りのフィナーレを飾るものです。市内を巡行した御神輿と屋台が加茂川土手にやってくるころには既に日は暮れかかっています。御神輿が膝丈ほどの水深の川に入って、対岸に渡っていくのを、だんじりとみこしは土手にずらっと一列に並んでお見送りします。このとき、例外的に、伊曽乃神社のお膝元の神戸(かんべ)地区の約10台の屋台は、御神輿と一緒に川に入ります。御神輿が川を渡りきると祭りが終わってしまうので、神戸地区のだんじりは少しでも祭りを長引かせようと、御神輿の行く手をさえぎります。この練りが30分近く続き、最大の見せ場となっています。
シシゾウ:「川入り」が終わると、
集まっていただんじりはどうするのですか?
石水:水に濡れてしまう神戸地区以外のだんじりは、名残祭りということで、それぞれの地元に帰って夜遅く、提灯の火が消えるまで、かきくらべをします。特に名残祭りが華やかなのはお堀のある御殿前です。だんじりが10台ほど並んで左右に揺れると、提灯の灯りがお堀の水面にゆらゆらと映って、とても情緒があります。さらに、だんじりの傍らを、地区に2台あるみこしが交差しながら走り込み、最後まで華やかな光景を繰り広げます。
そして、西条の人間の祭り好きを示す最たるものは、「西条まつりカレンダー」でしょう。祭りのある10月から1年が始まるカレンダーで、市内の書店で売られています。
シシゾウ:サイトを見ている人に向けて、メッセージをお願いします。
石水:「西条まつり」は地元の人間が心の底から楽しむ祭りです。でも、自分たちが楽しむだけでなく、「西条まつりはこんなに楽しいんだ」ということを、より多くの人に伝えていきたいとも願っています。祭りの楽しさを知るにはだんじりを担ぐのが一番です。だんじりを担ぐには舁き夫登録が必要ですが、だんじりを出す地区に知り合いがいれば、その知人経由で登録をすればいいし、知り合いがいなければ、「西条まつり」関連のサイトをご覧になって連絡していただければ、いろいろご案内ができると思います。ゆくゆくは、使われていないだんじりを利用した「体験だんじり」を有志で企画しているので、それが実現したときには、ぜひ多くの人に体験していただきたいですね。



