7月24日に行われる、「那智・美瑛火祭」は1989年から始まった祭りで、重さおよそ35キロの大松明12本を担いで美瑛の町を練り歩きます。那智・美瑛火祭実行委員会・委員長の有富友昭(ありとりともあき)さんに「那智・美瑛火祭」の見どころをお聞きしました。
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シシゾウ:「那智・美瑛火祭」が始まったきっかけを教えて下さい。
有富:美瑛町は、十勝岳連峰の山麓にある町です。1988年12月に十勝岳が噴火し、美瑛町の一部の地区住民に避難命令が出されました。当時の町は警戒態勢で、例えば夜、飲みに行くような人もおらず静まり返っていました。翌年の春には避難命令は解除されましたが、町は元気を失っていました。そんな折、美瑛神社の宮司さんのもとに“美瑛の町が静まりかえっているので、何か町おこしをしてくれませんか”と書かれた1通の手紙が送られてきたのです。それを読んだ宮司さんと、後に初代・火祭実行委員長になる渡部さんが、熱心に話し合っていく過程で美瑛町や美瑛神社の歴史を振り返り、和歌山県東牟婁郡(ひがしむろぐん)の熊野にゆかりがあることがわかったのです。
有富: 美瑛町は明治29年に、和歌山県東牟婁郡の田仲儀太郎(たなかぎたろう)さんを団長に熊野団体29戸が現在の扇町付近に入植したことから、町の基礎が築かれました。また美瑛神社は、入植者たちが熊野ゆかりの「小祠」を建立したことから始まっています。そこで、熊野の歴史ある祭り「那智の火祭」を、美瑛町でもできないかと熊野那智大社の朝日芳英宮司さんと当時の那智勝浦町の町長にご相談したところ、「那智」の名前を使用した火祭りの開催を快諾していただけたのです。そのような経緯から、1989年に十勝岳の鎮静・安全・美瑛町の発展を祈願する「那智・美瑛火祭」が始まりました。※那智火祭・・ 毎年7月14日に行われる那智勝浦町の熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)大祭で、日本三大火祭りの一つに数えられる。熊野那智大社に祀られている12のご神体が年に1度、扇みこしに乗って本殿から那智の滝へ里帰りする神事で、白装束に烏帽子(えぼし)姿の氏子たちが、大松明を担いで滝の前の石段を練り歩く。
シシゾウ:美瑛町で使用されている大松明は
どれくらいの大きさですか?
有富:重さはおよそ35キロ、高さは1.5mほどあります。1989年に祭りがスタートしてから2000年頃までは、大松明の代わりに「樽」を使っていました。樽に柄をつけて、その中に木材を入れて燃やしていたのです。でも樽では「見栄えが悪い」との声があり、大松明を作ることにしました。ぜひ「那智の火祭」の大松明に近いものを、ということで熊野那智大社から送っていただいた大松明を分解、研究して、実行委員たちでとりかかることになりました。
シシゾウ:大松明はどのように作るのですか?
有富:木の一本一本を木ねじで柄に留めて、5層ほどにします。一番気を使うのが、出来栄えに関わる一番外側の層です。そこまで実行委員たちで作ったあとは、桶屋さんに“たが”をはめてもらって完成です。全部で12体、作るのに3~4ヶ月かかります。那智の大松明に似せて作っているので、よく出来ていると評判は良いです。美瑛神社に実行委員たちが夜、集まって作っていますので、大松明作りを見に来ていただく事も可能ですし、美瑛町近隣の方は特に、製作に参加していただければもう大歓迎です!
シシゾウ:祭り当日の流れを教えてください。
有富:7月24日午後、美瑛神社に集合した実行委員たちは水をかぶってお清めをします。そして美瑛神社の本殿で火をおこします。摩擦熱を利用して火種をつくる昔ながらの方法で行っています。火種ができたら、かげとう(火を入れる入れ物)に火を移して、十勝岳望岳台に運びます。ここは十勝岳の中腹にある展望スポットで、正面に十勝岳、眼下に夏の美瑛の町と美しい景色を一望できます。運び終わると、美瑛神社の宮司が山の鎮静を祈念します。祭りの趣旨としては、ここが一番メインの行事です。その後は、火おこしした火を5~6本の小さい松明に移して、望岳台から美瑛神社までおよそ25キロの距離をリレー形式で走って運びます。近年は実行委員の人数が少ないために、この「リレー松明」を行っていませんでしたが、実は今年、復活させようと計画しています。
シシゾウ:リレーとは言え、25キロ走るのは大変ですよね。
有富:そうですね。下り坂のため、足が勝手に前に進んで止まらないということもあり、ちょっと危ないのですが、走りたいという実行委員もいるので、今年はぜひ再開しようと思っています。
シシゾウ:望岳台から出発したリレーの松明はどこに到着しますか?
有富:美瑛神社です。そこから丸山公園に移動します。 丸山公園で12体の大松明に点火した後、2~3人が1チームとなって1本の大松明を交代で担ぎます。水が入った桶を各チームが持っていて、大松明が燃えすぎないよう水をかけて火力を調節しながら大松明の行列は進みます。
シシゾウ:重さ35キロほどある大松明を担ぐのは、大変ではないですか?
有富:重いですが、持ち方にコツがあり、柄の先をおなかにつけて持ち上げるのです。中には点火していない大松明は持ち上げられなかったのに、点火すると火事場のバカ力とでもいいますか(笑)、持ち上げられる人もいます。
シシゾウ:丸山公園を出発した大松明の行列はどこに向かいますか?
有富:特別養護老人ホーム美瑛慈光園に向かいます。年配の方の中には和歌山の熊野から昔、美瑛にやってきた方もいらっしゃいますので、故郷ゆかりの大松明を見せてあげたいという気持ちからです。すごく喜んでくださるんですよ。美瑛慈光園の入り口あたりでお見せした後は、美瑛神社を目指します。美瑛神社に到着するとグルグル円を描くような行列になります。それから大松明の火をろうそくに移して美瑛神社に奉納します。
シシゾウ:一般の方も祭りに参加できる方法はありますか?
有富:はい、あります。高さ25cmくらいの手持ち松明というものを実行委員会で作っています。木の薄皮が4面あって、火を灯すろうそくが真ん中に入っています。柄がついているので、小さいお子様でも持てます。薄皮2面には火祭の絵が描かれていますが、1面には名前、そしてもう1面に祈願することを書けるようになっています。大松明の行列の後ろに、この手持ち松明を持った一般の方たちが続いて一緒に歩きます。実は、女性は大松明を担ぐことができないのです。でも「私も松明を持って参加してみたい」という女性の要望があったので、2代目実行委員長の大原さんが考案、作成した手持ち松明を実行委員会で作っています。1個1000円で限定100個、7月20日頃から美瑛神社またはJR駅前にある四季の情報館で販売しています。
シシゾウ:火祭に関わってきて、印象的だったことは何ですか?
有富:平成13年の時、実行委員会のメンバーとして大松明を毎日のように作っていたのですが、火祭の時期、実は美瑛はちょうど麦刈りのシーズンでして、私は7月24日の祭り当日が麦刈り当番の日に当たってしまいました。自分が作った大松明を担ぐどころか祭りにも参加できず、すごく残念だったのですが、それに加えて実行委員会に迷惑をかけたなぁという思いもあって複雑でした。けれど他の実行委員のメンバーは、「(迷惑かけたなんて)そんなことないよ」「大松明、持ちたかっただろうな」と言ってくれたのです。仲間の暖かい気持ちがうれしくて、心の中にすごく残っています。翌年からは7月24日に麦刈り当番に当たらないように気をつけています(笑)。
シシゾウ:今年の「那智・美瑛火祭」の見どころを教えてください。
有富:今年は「那智・美瑛火祭」20周年という節目の年です。ですので、熊野那智大社の大松明と競演できたらと思っていました。美瑛神社には、以前に熊野那智大社から送ってもらった大松明4本が展示してあります。そのうち2本と、もし可能なら新たに4本を熊野那智大社から送っていただいて、合計6本の熊野那智大社の大松明と競演できたら素晴らしいと考えていました。そして、熊野那智大社の朝日宮司さんに相談したところ、4本のみならず6本も送っていただけるとのことでした。大松明はお金に換算すると1本60万円から70万円もするものなので、太っ腹(笑)というか、20年の節目に対するお心づかいがとても嬉しかったです。大松明を担ぐ氏子の方々も熊野から大勢やってきていただけます。10周年の時にも競演したのですが、今年は2回目。熊野那智大社からいただく大松明6本と、美瑛神社の大松明12本の計18本という、他の祭りでは見ることができない大変ぜいたくな競演となります。めったにない機会ですので、ぜひ見に来てください。



