「麓山(はやま)の火祭り」は、福島県富岡町にある麓山神社で毎年8月15日に行われる勇壮な神事です。子どもの頃からこの祭りに参加してきた麓山青年会会長の三瓶達洋(さんぺいたつひろ)さんに、「麓山の火祭り」の見どころをお聞きしました。
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シシゾウ:「麓山の火祭り」はいつ頃始まった祭りですか?
三瓶:江戸中期の発祥と伝えられています。約400年の歴史と伝統があり、福島県の無形民俗文化財に指定されています。この祭りは麓山神社の祭礼で、白足袋に鉢巻、上半身裸の男たちが夕闇の中、御神火を受けた松明を担いで麓山のふもとにある麓山神社から頂上にある奥之院を目掛けて一気に駆け上る神事です。
シシゾウ:「麓山の火祭り」にはどのような由来がありますか?
三瓶:郷に近い美しい山を神として崇拝したことに由来し、五穀豊穣と猛獣毒蛇除けの祈願とともに、郷の死者の霊を迎えるために行うとされています。五穀豊穣への感謝ということでは、祭り当日の午前中に、氏子の人たちが土地でとれた農作物を神様に奉納する「七十五膳(しちじゅうごぜん)の献膳」という神事が行われます。なぜ、七十五膳と呼ぶかについては、昔、氏子が75軒あったからという説や七五三にかけているという説がありますが、定かではありません。
三瓶:夜7時から火祭りは始まります。参加者たちは、鉢巻、白パンツに足袋を付け、上半身は裸という格好で、各自用意した松明を持っています。最初に神主さんが安全を祈願し、参加者をお祓いします。次に「火もらい」という役目の者が神主さんから御神火(ごしんび)をもらい、境内に用意された大きな籠松明に火を移します。「火もらい」役は、参加者たちが持つ松明にも火をつけます。参加者全員の松明に火がつけられ準備ができると、榊を手にした御神体の役割の人間が「行くぞ」と声をかけます。この御神体の役目をするのは青年会の若者で、一生に一度しかできない大役です。掛け声を合図に、参加者は先頭を切って駆け出す御神体役に続いて山道を駆け上がります。駆け上っている間は、「千燈(せんどう)、万燈(まんどう)」と掛け声をかけます。言葉の意味ははっきり分からないんですが、神道と仏教が混じり合って生まれたものではないかと言われています。最初のうちは、みんなの掛け声も元気がいいですよ。シシゾウ:奥の院までどのくらいの距離がありますか?
三瓶:麓山の標高は約230mですが、山頂へ至る山道は曲がりくねっていて距離にして600mくらいはあります。大人が松明を手にして約15分の距離です。先頭グループは最初から最後までほぼ同じペースで上がりますが、年齢差や体力差があるので、遅れがちになる人たちも出てきます。
参加者全員が山頂に揃うと、御神体役の者は万歳三唱をし、参加者も続いて唱和します。それがすむと休む間もなく御神体役の者を先頭に参加者は山を駆け下ります。境内に戻ると、神社の本殿の周囲を33周ぐるぐる回り、また万歳三唱をします。そこで火祭りは終了で、恒例の盆踊りに移っていきます。
シシゾウ:火祭りに参加するには何か資格が必要ですか?
三瓶:特に資格は必要ありません。基本的に参加するのは神社の氏子や富岡町の人たちですが、最近は町外の人も参加するようになりました。今は富岡に住んでいないけれど、昔、自分が参加したから子どもにやらせたいという人もいます。年齢層は幅広いです。小学生もいれば50歳前後の人もいます。6歳の子が参加したこともあります。私が初めて参加したのも小学校に入るか入らないかの頃でした。親父が青年会にいた関係で半ば強制的でしたけどね(笑)。

シシゾウ:松明はどのくらいの大きさですか?
三瓶:自分の背丈より高くて、大人サイズで長さが約3mあります。子どもの持つ松明はそれより小さいですが、それでも自分の身長よりは高いです。
松明は参加者が自分で用意します。基礎部分は竹で、中に松の木を詰めます。青年会で切った材木を神社の境内に用意するので、地元の人間はそれを持って行って自分で作ります。昨年は初めて、地元の小学生対象に松明の作り方の講習会を行いました。
シシゾウ:松明の火でやけどをすることはありませんか?
三瓶:上半身は裸ですから、自分の松明や人の松明でやけどをすることは当然あります。でも、この祭りに参加する人は最初からやけどくらいしても構わないという覚悟で参加しています。ただ、子どもについては、父親など大人が付き添うようにしています。
参加者の松明が燃えすぎて危険なときには、山道を提灯で照らす提灯持ちという役割の者が火を小さくしたり、消したりする役目も受け持っています。
シシゾウ:麓山の男性は誰でもこの祭りに参加するものですか?
三瓶:ほとんどの者は経験していると思います。私は20回近く登っています。ご利益を得るには3回連続で上らないといけないという言い伝えがありますが私は余裕でクリアです。正直、子どもの頃は祭りの趣旨を分かっていないし、やけどは痛いし、なんでこんなことをするんだろうと思っていました。だけど、年を重ねるうちにいろいろ思い入れもでてきました。
シシゾウ:見に来られる人に特にお伝えしたいことはありますか?
三瓶:麓山の火祭りは五穀豊穣を祈って標高230mの麓山を一気に駆け上る勇壮な神事で、一度見たら一生忘れないくらいの衝撃と感動があるので、ぜひ見に来てほしいです。街中からでも松明の火が山道を移動していく様子を見ることができますが、せっかく見物に来られるのでしたら、ぜひ神社までお出でください。登る前に火のついた松明を持って参加者全員が並んだとき、山道を登るとき、山頂から下りてきて社殿の周囲を回るとき、と3回見どころがあります。本殿を囲むように観客がいますが、境内は狭くてあまり大勢の人が入れないので7時からの神事が始まる前に境内に入っておくほうが良いと思います。大きい籠松明を見るのでしたら本殿から向かって左側が良いです。ただし、火の粉は飛んできます。
街中にいらっしゃる場合は、麓山の東側が正面になって祭りの様子が見やすいです。場所で言うと高速道路のインターチェンジ付近です。ちなみに街から松明の火がよく見えると、その年は豊作になるという言い伝えがあります。
シシゾウ:「麓山の火祭り」を見物に来た際、お勧めの立ち寄りスポットはありますか?
三瓶:火祭りは夜からですが、できれば朝からお出でください。午前中に七十五膳の献膳を見て、午後は神社の近くの農園でブルーベリー狩りをしたり、直売所で農産物を買ったり、海辺の町なので少し足を伸ばして海岸で海水浴をするなど、火祭りまでの時間を楽しく過ごしていただければと思います。



