真鍋島は岡山県の最南端、瀬戸内海に浮かぶ人口400人足らずの小さな島です。この島は3台の神輿が通りを激走する「走り神輿」があることで知られています。走り神輿保存会会長の井本瀧雄(いもとたきお)さんにこの勇壮な祭りの見どころをお聞きしました。
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シシゾウ:「走り神輿」はどのような行事ですか?
井本:八幡神社の祭礼で、法被にふんどし姿の若者たちに担がれた3台の神輿が島の通りを猛烈な勢いで全力疾走する行事です。真鍋島にだけ伝わる祭りと言われていて、笠岡市の重要無形民俗文化財にもなっています。
「走り神輿」の起源は、元禄9年(1696)の八幡神社新築の記念行事だと伝えられています。300年以上もの歴史を持つこの祭りですが、実は平成10年に一度廃止されそうになりました。祭りを取り仕切る役目の人の負担が非常に大きく、過疎で高齢化が進んでいることもあって、これ以上続けられないということになったのです。でも、せっかく今まで続いてきた伝統のある祭り、しかも真鍋島にしかない祭りなのでどうにかして続けていきたいと思い、30代40代の人間が集まって保存会を結成し、祭りの伝統を守ることができました。
元々は旧暦の8月15日に一番近い土日に行われていましたが、神輿の担ぎ手や運営関係者を確保するために、平成17年から5月のゴールデンウィークに日程を変えました。
シシゾウ:どのようなスケジュールで行なわれるのですか?
井本:神輿が走るのは2日間ですが、その前日の宵宮から祭りは始まっています。宵宮では、しまっていた神輿をきれいにし、輿守(こしもり)と呼ばれる神輿の担ぎ手たちが集まって練習がてらに神輿を1、2回走らせます。翌日の本祭りは、神輿に神様をお乗せする神事を行ってから、岩坪港から本浦港まで船に神輿を乗せて海上を渡御します。それから、島内の道路で神輿を走らせて競争してから、その日は神輿を御旅所に安置します。翌日はお帰りで、一晩御旅所で過ごした神様をお戻しするために、八幡神社に向けて再び神輿を走らせます。
シシゾウ:3台の神輿にはどんな意味があるのですか?
井本:各神輿には、祭神の八幡様、八幡様を護衛する山の神様、荒神様の3神にお乗りいただきます。そして、島内の岩坪、本浦東、本浦西の3地区がそれぞれ1台の神輿を担ぎます。神様の順番は先頭に山の神様、真ん中に八幡様、最後に荒神様と決まっていますが、担ぎ手の地区は毎年変わります。不思議ですが、神輿を担いだ者たちは、八幡様が乗っている神輿は他の2台より重く感じると言います。それも神様にお乗りいただいてからの方が、練習で担いだときよりズシッとした重さを感じると言いますね。私も10年以上担いできましたが、毎回そんな感じを受けました。
シシゾウ:走り神輿というからにはずっと走っているのですか?
井本:昔はずっと駆け続けていたそうですが、今は決まった場所を3ヵ所走ります。
最初に走るのは、神輿が通ると脇を人が通れるか通れないかというくらいの狭い路地で、距離にして50mほどです。2番目は100mほどの距離で、これも家と家の間の狭い通りです。走り出してすぐに90度曲がらないといけない角が2ヵ所あるので、これを上手にやりすごすには非常に高いテクニックが必要です。最後に走るのは桟橋近くの道幅の広い道路で、約200mという一番長い距離を走ります。輿守たちは疲れてきていて一番きついところですが、一番迫力があります。
シシゾウ:神輿を早く走らせるコツはありますか?
井本:約100kgの神輿を8人で担ぐのですが、「走り神輿」の神輿は手と腰で持つので、肩で担ぐよりも走るのが難しいのです。早く走らせるには、8人の輿守が息を合わせることと、輿守の背丈をできるだけ揃えることがポイントです。
輿守の配置も重要です。8人いる輿守は担ぐ位置によって役割がそれぞれ異なります。神輿の前後について神輿をコントロールする役が本かじ、相かじです。ここの息が合わないと気持ちよく走れないので経験豊富なベテランが担当します。実質的に神輿の台を支えるのは七人力(しちにんりき)、相力(あいりき)、宮めぐりと呼ばれる役割です。七人力は、7人分を1人で受け持つという意味から付いた名称で、昔、潮の引いた海岸を走っていた頃には一番力のかかってくる位置だったため、今でも一番力の強い人間が担当します。七人力、相力、宮めぐりがバテてしまうと神輿が走りませんので、そこを若い人に受け持たせるのも、早く走らせるコツです。
シシゾウ:輿守になるのはどんな人たちですか?
井本:現在、島の人口は400人をきって高齢化が進んでいるため、島内出身の輿守は半数ほどです。残りは友達や知り合いに声をかけて参加してもらっています。年齢層は下は高校生から上は30歳くらいまでです。好きな人は30歳を過ぎても頑張っています。私は17歳で初めて輿守になってから33歳までほとんど毎年担いでいました。さすがにそれ以上になると担ぎたくても足がついていかないです。
初めて神輿を担ぐと、無我夢中で神輿が重いやら軽いやら、しんどいのかどうかもよく分からないうちに終わっているという具合です。それが2回、3回と経験してくると、見物のお客さんの顔が見えてくるようになります。その反面、しんどさも分かってきます。ですが、一度神輿を担いだ人は、次の年もまた担ぎたいと言います。祭りの花形ですし、走っているうちに8人が意気投合して友達になれるのが良いのでしょう。
シシゾウ:見物するのにおすすめの場所はどこですか?
井本:本祭りで走る3ヵ所ともそれぞれに見ごたえがあります。見物するなら、コースの半分から後半、特に8分目くらいのところが迫力があっていいと思います。3ヶ所のうちで特におすすめするとすれば、道幅が広くて見やすい3番目でしょう。最初に直角に曲がって、直線を駆け、最後でまた直角に曲がって神輿をおさめるこのコースは、最後の角を曲がる手前付近が見物におすすめです。ちょうど山陽汽船の乗り場前になります。
翌日のお帰りも神輿が走りますが、見ごたえがあるのは神社に神輿が戻ってきたところです。境内に神輿が順番に入っていって本殿で神様をお降ろしするのですが、1番目の神輿は神様を降ろすと鳥居で待っている2番目の神輿のところまで歩いて戻ります。そして、神輿が正面同士で向かい合うと、かじ棒同士をコツンとぶつけます。その反動で、1台目の神輿の向きを180度回転させて、2台目の神輿と向きを揃えます。そうして、2台揃って本殿に駆けていきます。2台目の神輿が神様を降ろすと、1台目と2台目の神輿は同じようにして3台目の神輿を迎えに行って、最終的に3台が並んで本殿に向かって駆けていきます。鳥居から本堂まで50mほどありますが、3台が並んで走るところは壮観ですよ。
シシゾウ:サイトを見ている方に「走り神輿」をアピールしてください。
井本:3台の神輿があっという間に目の前を走り抜けていく様子が迫力満点で、ご覧になった方は「また見に来たい」と言われます。祭りの解説付きのツアーもあって、それに参加されると、祭りをより深く楽しんでいただけると思います。真鍋島自体も岡山県のふるさと村に指定されている風光明媚な島で、山歩きや豊富な海の幸を楽しめますので、ぜひ一度島に来ていただきたいです。



