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祓川神楽

毎年、12月の第2土曜日の夕方から翌日の朝まで舞う「祓川神楽(はらいがわかぐら)」は宮崎県西諸県郡(にしもろかたぐん)高原町にある霧島東神社の奉納神楽で、国選択指定無形民俗文化財に選定されています。昨年6月には、東京の国立劇場小劇場で上演され、注目を集めました。祓川神楽保存会会長の西川嘉宏(にしかわよしひろ)さんに、「祓川神楽」の見どころをお聞きしました。

国立劇場スタッフも御講屋の素晴らしさにびっくり!

シシゾウ:「祓川神楽」は12月の第2土曜日に、
何演目上演されるのですか?


西川:実際に上演するのは31演目です。その他、「陰陽(いんよう)」と「柴の問(しばのとい)」という演目も資料として伝わっていますが、2つとも私の祖父さえ見たことがない舞いなので、現在は舞っていません。復活させるかどうか、氏子衆と相談しているところです。

シシゾウ:「祓川神楽」の上演は祓川地区においてのみですか?


西川:基本的にはそうですが、時には招いていただいて祓川地区以外で舞うこともあります。昨年は国立劇場小劇場で初めて上演しました。東京に地元で舞う時に用意するものを持って行き、できる限り地元と同じように再現しました。神楽を舞うところを御講屋(みこうや)と言いまして、神棚の正面、反対側、右、左にそれぞれ鳥居を作りますが、それらは春夏秋冬を現しています。そして、御講屋の中央の上からは「ヤタンバン」という竹かごを吊り下げます。竹かごの周囲には天の7神、地の5神の名前を書いた紙が貼られており、中には八咫(やた)鏡が入っています。東京でこの御講屋を再現したのですが、「今もこういうものが残っているんですか。素晴らしいですね」と、国立劇場の舞台設定をするスタッフの方たちが驚いていらっしゃいました。
雀(すずめ)百まで踊りを忘れず!!

シシゾウ:「祓川神楽」は何歳から舞うのですか?


西川:小学校入学前か、入学後間もない年齢からです。子どもが最初に舞うのは「剣(つるぎ)」という舞いです。若者2人と子ども1人の舞いで、真剣の刀を使用しますので、3人の息が合わないと舞うことができません。例えば、若者2人が持っている真剣の先を、真ん中にいる子どもが握って後返りなどをしますので、本当に息をピッタリ合わせる必要があるのです。「剣」を覚えた子どもは次に、神楽の始まりを告げる子ども2人の舞い「一番舞」を覚え、中学生から高校生あたりになると、2人で舞う「式参番」を舞います。そして「諸神勧請(しょじんかんじょう)」へと進み、子どもの舞いは次第に大人の舞いへと近づいていきます。子どもの頃に足の運びなどの基礎をしっかり覚えれば、大人の舞いも着物や姿が違うだけで、動きはある程度同じですので、すぐにできるようになります。ですから私は、子どもたちに「地味な舞いだけど、ちゃんと覚えなさい」と口酸っぱく言うようにしています。
子どもたちの憧れ「十二人剣(じゅうににんつるぎ)」

シシゾウ:子どもたちが大人になって、まずやってみたいと思う舞いは何ですか?


西川:「十二人剣」だと思います。12の神様を表す12人が、真剣を振りかざして転んだり、舞ったりする勇壮な舞いです。この舞いは12人全員が刀を持って舞うため、息が合わないと怪我をしかねません。例えば転ぶ場合、刀を脇にかかえて右肩から右の方向へ12人が転び、次に左肩から左の方向へ転びます。12人が同じタイミングで同じ方向へ転ばないと、刀を抱えたまま、ごちゃごちゃになってしまうため危険なのです。「十二人剣」では、「岩くぐり」という悪魔を祓うところが最大の見せ場です。刀の柄と相手の刀の切っ先を持ってトンネルを作り、その下をくぐりながらぐるぐる回るのですが、その時が一番しんどいですし、動きがすばやいので一番危険です。私自身もそうでしたが、「十二人剣」をやり始めて1、2年目の頃は、怪我をしないようにぐるぐる回って、ただ先輩の後をついていくだけで精一杯です。しかし、勇壮な舞いですし、12人の息が合ったときは何ともいえない達成感がありますので、子どもや若い子たちが目標にする舞いなのです。
男泣きするオンズとは!?

シシゾウ:12人はどのように息を合わせるのですか?


西川:12人の中には「オンズ」という、音頭取り、いわばリーダーがいます。「オンズ」は“ハンヤー”という掛け声を出して、他の11人を引っ張っていきます。練習の段階から、初めて入った人に、速度や何回まわって飛び込むかなどを教え、また、本番で11人の動きを司って息を合わせることができるかどうかは「オンズ」にかかっているのです。私もはじめて「オンズ」になってやり遂げた時は、自分が理想としていたところまでたどり着いたなぁと感激したものです。男泣きをする「オンズ」もいますよ。それから、「長刀(なぎなた)」の舞いを無事終えた人も、感激して涙することがあります
通(つう)は「長刀(なぎなた)」を見逃さない!!

シシゾウ:「長刀」はどのような舞いですか?


西川:「十二人剣」が終わると、満足して帰ってしまわれる観客は少なくありませんが、通の方や神楽が好きな年長者たちは、明け方時分の「長刀を見ないといかん」と残ります。祓川地区では、神楽がある日は各家庭を訪れた方に蕎麦(そば)を振舞ってもてなすという昔ながらの風習があります。そのため家の女性達は忙しく、なかなか神楽を見にいけないのですが、私の祖母は朝方「あぁ夜明けだ。長刀の時間じゃね。ええころじゃね。」と言って、「長刀」の舞いを見に行っていました。この舞いは一人舞で、長刀を手で回すだけでなく腰で回す場面があり、長刀を扱う技がいる勇壮な舞いです。

シシゾウ:「長刀」はどういった方が舞うのですか?


西川:だいたい「十二人剣」を経験した人の中から選ばれます。やはり刀を使うのが器用な人、不器用な人がいますから、そういった所を見極めながら人選をしていきます。私も「長刀」の経験者ですが、長刀は扱いが大変です。ぐるぐる回している最中に、長刀が手から離れて客席に飛び出していきそうになり、ひやっとしたこともありました。
心温まる蕎麦のおもてなし!

シシゾウ:先ほど祓川地区には各家庭を訪れた方に蕎麦を振舞う風習があるとおっしゃいましたが、もう少し詳しく教えてください。


西川:祓川地区の各家庭では、神楽がある日に家を訪ねて来た方に蕎麦を振舞います。知り合いの方だけでなく、観光客にも振舞います。ですから、各家庭で用意する蕎麦の数は相当です。例えば私が勤めていた頃は、家で200から300食ぐらいお出ししていました。この風習は今も受け継がれていますので、神楽のある日に祓川地区に来られたら、「蕎麦をいただけると聞いてきたのですが、お邪魔してもいいですか?」とおっしゃって、各ご家庭を訪ねていただければ何も問題ありません。お客様をもてなす、という昔からの風習ですので、気持ちよくおもてなしを受けてください。
いわしの「竃祭(かままつり)」って?

シシゾウ:他に珍しい風習はありますか?


西川:いわしを召し上がっていただく「竃祭(かままつり)」というものがあります。祓川神楽では、明け方間近に「太刀」という舞いが終わります。その後も御講屋で演目は続いているのですが、神主、太刀の鬼神たちは神楽宿(かぐらやど)に向かいます。実は昔、神楽は地区内の家を巡回する形で行われていて、その頃は庭に御講屋を作り、神楽を行う家のことを「神楽宿」と呼んでいました。今は家の庭に御講屋を作ることはありませんが、神楽宿を選定する風習は昔と変わっていません。その神楽宿に神主たちが到着すると、舞手が「地割(ぢわり)」という演目で使用した4本の矢を射込み、その後、神楽宿の一角に造った竃(かまど)で神事が行われ、竃でいわしを焼き、皆に振舞います。ですから、神主たちについて神楽宿に行くと、振舞われるいわしを召し上がっていただけます。竃(祭)を見て、いわしを食べる頃にはすっかり朝で、神楽もお開きの時間になります。
お餅の争奪戦に参加しよう!

シシゾウ:最後に「祓川神楽」を見に来られる方にメッセージをお願いします。


西川:神楽宿で「竃祭(かままつり)」が行われている間も、御講屋では演目が続いています。「花舞」では “日の餅”365個、“月の餅”12個をお盆に乗せ、片手に持って餅を落としながら舞います。そして御講屋に張り巡らされている注連縄(しめなわ)すべてを切り落としますので、観客も御講屋内に入ってお餅を拾うことができます。唯一、観客が御講屋に入ることが許される演目で、縁起のいいお餅を持って帰るために、たくさんの方が待ち構えています。皆さんも是非ご参加ください。