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信州諏訪大社で7年に一度、社殿の四隅の大木を建て替え宝殿を造営する祭り、御柱祭。重さ10tを超える巨木を山から切り出し、人力のみで各神社までの道中を曳います。諏訪地方の6市町村21万人の氏子が、全精力を注いで参加する天下の大祭です。また、秋には小宮と呼ばれる地域の神社などでの御柱祭もあります。


シシゾウ:御柱祭はいつごろ始まった祭りですか?
五味:御柱祭という通称が広く知られていますが、この祭りの正式名は「式年造営御柱大祭(しきねんぞうえいみはしらたいさい)」と言います。干支の寅(とら)と申(さる)の年に宝殿が新築されるのに合わせて、社殿の四隅に建つモミの木の御柱を建て替えるこの祭りがいつ、どのように始まったのかは記録が残っていないため諸説ありますが、1200年以上前から行われている由緒ある祭りであることに間違いはありません。
シシゾウ:御柱祭は諏訪大社の上社(かみしゃ)と下社(しもしゃ)に分かれて行われるそうですね。

五味:諏訪大社は上社の本宮と前宮、下社の春宮と秋宮の4社から成り立っていて、御柱祭は6市町にまたがる上社、下社、それぞれの氏子によって別々にとり行われます。ひとつの神社につき御柱が4本で、上社8本、下社8本、合計16本のモミの巨木を山から伐り出し、神社まで人の力だけで曳行(えいこう)するという内容は、上社・下社ともにほぼ共通ですが、違う点もあります。最も大きな違いは、上社の御柱には「めどでこ」、地元の人間は「めど」と呼んでいる長さ約4mの2本の木を、角のように前後に取り付けられるところです。曳行の際は、この「めどでこ」に氏子の若衆が乗ります。また、御柱の曳行を盛り立てるために歌われる、御柱祭になくてはならない木遣り唄(きやりうた)も上社と下社で歌詞も節回しも異なります。

シシゾウ:御柱祭はどのようなスケジュールで行われるのですか?
五味:今回、4月1日から6月15日までが御柱祭の開催期間ですが、祭りで使用する御柱用材の準備は、2年前から始まっています。上社では、木の調達を上社の社有林のある八ヶ岳山麓の御小屋山(おこやさん)でずっと行ってきたのですが、昭和34年の伊勢湾台風の被害で良木が倒れてしまった為、今回は前回に引き続き立科町の町有林で御柱になる木を探しました。まず、祭り本番に先立つ2年前の春に候補となる木を30本ほど選び、同年夏に仮見立てとして15本程度に絞り込み、昨年の初夏に本見立てということで、8本の御柱を最終的に決定する神事を行いました。毎回、関係者は御柱が決まるまで少なくとも7~8回は山に入りますね。
シシゾウ:御柱に選ばれるのはどのような木ですか?

五味:太くてまっすぐなモミの木です。さらに、上社の場合は柱の前後に「めどでこ」を取り付ける関係上、上から下まで太さの変わらないずん胴の木が望ましいとされています。選ばれる木のサイズは、長さ17m前後で、人の目の高さで図った幹周りが約3m、直径にして1mというおおよその目安があります。そのくらいの大きさになると、樹齢は170年前後、重量は10t以上になります。上社の場合、8本の御用材で最も太くて立派な木が本宮一之御柱に選ばれ、次いで太い木が前宮一之御柱、本宮二之御柱、前宮二之御柱というふうに、四之御柱まで全ての柱が建てられる場所を決められます。 御柱の曳行は地区ごとに行われます。上社では氏子18地区を8つに分け、2月の御柱抽籤式(おんばしらちゅうせんしき)のくじ引きで、どの地区がどの柱の曳行を受け持つかを決めます。どの地区も狙うのは本宮一之御柱です。そこで、地区の責任者は、祭りの年の1月1日から抽籤式の日まで毎日上社に早朝参拝して、地区にふさわしい良い木が授かるように祈願します。そこまでするほど、氏子たちにとってどの柱を曳くかは重要なのです。


五味:山から伐り出した御用材を里へ曳き出すのが、4月に行われる「山出し」です。伐採された山林から「山出し」の出発地に移された8本の御柱は、氏子たちが綱打ちした曳綱を付けられ、上社の場合は「めどでこ」も取り付けられ、出発の用意が整えられます。 上社の「山出し」初日、スタート地点の原村境の綱置場(つなおきば)を、本宮一之御柱から順番に本宮と前宮が交互に曳き出されていく8本の御柱は、18歳から42歳の厄年までの男の氏子たちによって約12kmの道のりを3日間かけて曳行され、ゴールの安国寺(あんこくじ)の御柱屋敷(おんばしらやしき)を目指します。
シシゾウ:「山出し」のクライマックスはどこですか?

五味:御柱が急坂を一気に下る「木落し(きおとし)」は「山出し」最大の見どころであり、一番危険の伴うところです。上社の場合は、宮川小学校そばに「木落し坂」があります。10万人近い観衆が見守る中、御柱は坂のてっぺんの断崖から少しずつ宙にせりだすようにして姿を現し、「めどでこ」に若者たちを乗せたまま、最大斜度27度の坂を滑り落ちていきます。このとき、柱が傾いて若者たちが振り落とされないように、左右に張られた命綱でバランスがとられます。また、スピードが出すぎないように柱後方の追掛綱(おっかけづな)で速さもコントロールされます。 なお、上社の「木落し坂」は、前回の祭りの後の2006年から3年がかりで「木落し公園」として整備され、坂の全長が17mから34mと2倍の長さになりました。また、断崖のところも土盛りされ以前より高くなったので、より迫力のある「木落し」をご覧いただけるのではないかと思います。


五味:「山出し」で「木落し坂」に続く難所が、川幅約40mの宮川(みやがわ)です。この川を渡って、御柱を洗い清める「川越し(かわごし)」は、「木落し」と並ぶ「山出し」の見せ場です。川にさしかかった御柱は川の上に若者の乗った「めどでこ」をせりだし、そのままの状態で10~20分ゆさゆさと左右に大きく揺らせます。そうしてからいよいよ御柱は川の中に入っていくのですが、スムーズに着水する柱もあれば、豪快に水しぶきをあげて川の中に突っ込む柱もあるという具合で、みごたえたっぷりです。柱が川を渡るときは、曳綱を曳く曳き子たちも川の中に飛び込みます。私も以前、川の中に入ったことがありますが、この時期は八ヶ岳の雪解け水が流れ込んでくるので、まさに身を切られるような冷たさです。そのようにして向こう岸へ渡ると、ゴールの御柱屋敷はすぐそこです。3日間にわたる曳行を終え、御柱屋敷に勢揃いした8本の御柱は約1ヵ月後に行われる「里曳き」の日を静かに待ちます。

シシゾウ:「里曳き」のみどころはどこですか?

五味:山から里に下りてきた御柱を神社まで運び、それぞれの社殿の四隅に建てる「里曳き」は、「山出し」に比べて曳行の距離が短く、難所もありません。その代わりと言っては何ですが、騎馬行列や諏訪地方伝統の長持ち行列、花笠踊りなどが繰り出して曳行を華やかに盛り立てます。 「里曳き」で一番の見せ場は、御柱を神社の境内に建てる建御柱(たておんばしら)です。曳綱が外され、上社の場合は「めどでこ」も取り去られた御柱は、「冠落し(かんむりおとし)」と言って、先端になる部分を斧(よき)で鉛筆の先のような三角錐状に削られます。さらに、ワイヤーロープが取り付けられ、掛け声に合わせて、氏子たちが車地(しゃち)と呼ばれる道具でロープを巻き取っていくことで御柱はゆっくり立ち上がっていきます。このとき、御柱には若者たちが10~20人乗り込みます。1時間ほどかけて御柱がまっすぐそびえ立つと、柱に付けられた足場をたよりに、柱に取り付いている若者たちの一番上にいる若者頭(わかものがしら)が、長さ1.5mほどの大御幣(ごへい)を柱の先端に釘で打ち付けます。その瞬間から御柱は神になるとされています。その後、御柱の根元が固められ、建御柱が無事に終わると、氏子たちは万歳の声を挙げ、境内中が歓喜に包まれます。こうして長きにわたった御柱祭は幕を閉じますが、我々祭り関係者は次の若者頭は誰にするかなど、既に6年後の御柱祭のことに思いを馳せています。
シシゾウ:御柱祭で昔と今とを比べて変わってきたところはありますか?
五味:かつて、女性の方は御柱に触れてはならない決まりでしたが、平成になってからは曳行中でなければ女性の方でも御柱に触れたり、「めどでこ」に乗って記念撮影をしたりすることを認める地区が出てきました。 変化ということで言えばもうひとつ、私が40年ほど前、若衆として曳行に参加していたときは、「めどでこ」に乗れるのは御用材の準備などで奉仕をした者だけでした。しかし、最近は皆で申し合わせて交替で乗るようになっています。私が若かった頃は、「めどでこ」に乗るために皆、一生懸命奉仕をし、「山出し」当日は朝「めどでこ」に乗り込むと夕方まで乗りっぱなしで、昼食をとるのもおにぎりを下から放り上げてもらったものですが、これも時代の流れなのでしょうね。なお、今回から曳行するコースの道幅が広くなったことを受けて、「めどでこ」の長さが1m長くなるので、今までより多くの人が乗れるようになります。

シシゾウ:諏訪地方で五味さんおすすめの特産物や観光スポットを教えてください。
五味:諏訪で一番のみどころはやはり諏訪大社ですので、こちらに来られたらぜひご参拝していただきたいです。御柱祭のある年には、御柱でできた御守や木札など特別授与品が販売されるので、参拝の記念に良いのではないかと思います。 霧ヶ峰の伏流水に恵まれている諏訪地方は、古くから酒造りが盛んで蔵元も多いです。本当に美味なので、お好きな方にはぜひお勧めしたいです。野沢菜漬も諏訪地方の名物です。漬け方の違いなどで種類も豊富ですので、ぜひご賞味ください。


五味:御柱祭は、テレビで紹介される機会が多いことから、今や地元だけでなく国内はもとより海外からも大勢の観光客が見に来られます。安全対策実行委員長という立場としては、決められたスケジュール、決められたルールを守って、事故がなく、御柱を曳く人も楽しく、見る人も楽しい御柱祭にしたいと思います。 地元の人間として、祭りの伝統は守っていかなければいけないと思っていますが、他所から来られた方に御柱祭のすばらしさを伝えていくことも大切だと考えています。今回の祭りでは、観光で来られた方にも曳行の気分を味わっていただこうということで、観光客向けの曳綱を用意している地区もあります。御柱祭にぜひお越しいただき、地元の人間と一緒に楽しんでいただきたいですね。
