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「幸稲荷神社」に奉納される歴史ある祭典です。祭典は5日間にわたり行われ、19、20日に奉納される祭礼囃子が「花輪ばやし」という名称で多くの人々から親しまれています。暗闇に浮かび上がる豪華絢爛な屋台、夜を徹して鳴り響く賑やかなお囃子が特徴で、「日本一の祭り囃子」と賞賛され、鹿角最大の祭りです。


シシゾウ:花輪ばやしはいつごろ始まったのですか?
戸澤:歴史が相当古いものであることは明らかですが、文献が残っていないため、はっきりしたことは分かっていません。おそらく400年近い伝統があるのではないかと思います。花輪ばやしは私たちが産土(うぶすな)さんと呼んでいる幸稲荷神社(さきわいいなりじんじゃ)の祭礼です。本来の祭り期間は、神社の神輿が御旅所(おたびしょ)にお渡りする16日から、お帰りになるまでの20日までですが、そのうち花輪ばやしの屋台が出動するのは19日と20日の2日間です。花輪地区の10町から1台ずつ出される屋台は、神様を喜ばせるために町内を練ってお囃子を奉納します。
シシゾウ:花輪ばやしにはどのような特徴がありますか?

戸澤:最大の特徴は、夜通し行われる夜祭りであるということです。19日の夕方5時半に屋台のパレードがスタートし、各町に戻るのが深夜の11時頃です。それから1時間ほどの休憩を挟んで、20日午前0時から朝詰(あさづめ)パレードがスタートします。それが朝6時まで続き、日中の自主運行を挟んで、再び夕方5時から21日の朝3時頃にかけて屋台が運行します。花輪っ子はこの祭りになると血が騒いで眠くならないんです(笑)。
花輪ばやしのお囃子は中太鼓、打太鼓、笛、三味線、摺り鉦で構成されています。囃子の曲は現在12曲が伝承されています。代表曲は「本屋台囃子(ほんやたいばやし)」と言い、行進曲調の非常にのりのいいお囃子です。私が好きな曲は、一晩中運行をして夜明け前に自分たちの町内に帰るときに演奏する「霧ばやし」です。祭りが終わるのを惜しむかのような非常に情緒のある曲です。
花輪ばやしのもうひとつの特徴は屋台にあります。よその地域では山車と呼ばれるものです。一般的に太鼓などの囃子の演奏者は屋台に乗り込んで演奏しますが、花輪ばやしの屋台は腰抜け(こしぬけ)屋台といってお囃子の人は歩きながら演奏します。
シシゾウ:屋台を曳いたり、お囃子を演奏するのはどういう人たちですか?

戸澤:この祭りは定年制を敷いていて、屋台を曳いたりお囃子を演奏したりできるのは男の厄年の42歳までと決まっています。その年齢を過ぎれば表舞台には一切出られず、祭典委員会など裏方として祭りをバックアップする側に回ります。定年制が敷かれた時期は、はっきりとはわかりませんが、少なくとも400年以上もの間、私たちはこの定年制の伝統を守っています。
屋台の運行メンバーは各町とも、整然とした縦割組織になっています。役職は若者頭(わかものがしら)を筆頭に、パレードを取り仕切る外交、酒食の買出し担当といったものまで細かく定められています。各自の役は役職名の入った提灯で示され、他町との交渉では必ず同格の役職と話し合うのが決まりです。最近は女性もお囃子の演奏に加わるようになりましたが、役職関係には一切就きません。

シシゾウ:花輪ばやしのみどころはどこですか?

戸澤:この祭りで最も重要な行事は20日午前0時からスタートする朝詰パレードです。全町の屋台10台が神輿の控え所がある枡形(ますがた)と呼ばれるところまでパレードし、各町ごとに得意曲を奉納します。
パレードは全町の屋台が一斉にスタートするのではなく、まずエリアの一番端にある組丁(くみちょう)の屋台が、隣町の横丁(よこちょう)に向けて出発します。組丁と横丁の町境(ちょうざかい)には横丁の屋台が待っていて、横丁の町内を通行するための通行権を巡る話し合いが持たれます。そこで活躍するのが運行の最高責任者の外交長です。組丁と横丁の外交長が話をして、お互いに納得の行く屋台の停止線が定まると、横丁が組丁の屋台を「どうぞお入りください」と迎え入れます。そうして横丁と組丁の屋台が一緒になって次の町境に向かいます。そうやって町境ごとに外交交渉をして合流してということを10町が揃うまで繰り返します。この外交交渉は基本的に儀礼的な話し合いで行われますが、花輪ばやし発祥の地で旧3町といわれる大町(おおまち)、谷地田町(やちだまち)、六日町(むいかまち)の町境でのやり取りはかなりエキサイトします。特に谷地田町と六日町の町境でのやりあいは激しく、屋台をぶつけあう光景が見られます。それを期待して見物に行かれる方も多いです。
シシゾウ:朝詰パレードで見物におすすめの場所がありますか?

戸澤:枡形に行くまでの間に、稲村橋(いなむらばし)という米代川(よねしろがわ)に架かる橋の上に10台が勢揃いします。橋の上に屋台が1列に並ぶと、川面に屋台のちょうちんの明かりがきらびやかに映ってとてもきれいです。
10町の屋台は神輿の控え所のある枡形に着くと、1町ずつ得意曲を奉納します。それが終わると「サンサ」を行います。これは花輪ばやしでだけ行なわれる独特の手締めの儀式で、円形の陣形になって「サーンサーンサーントセ、オササノサントセ、ヨイヨイヨイ」と言う御祭神の産土さんを讃える台詞を3度繰り返して手を打ちます。サンサは2日間で枡形を含めて5回行われます。


戸澤:花輪ばやしのみどころとして、観光で来られた方におすすめなのは、JR鹿角花輪駅前広場で19日、20日の夜8時頃から行われる駅前行事です。昭和30年代にスタートしたこの催しでは、屋台10台が花輪駅前に勢揃いし、お囃子の競演をします。
花輪地区に伝わる盆踊りの「町踊り」が花輪の女性たちによって披露されると、屋台が1台ずつ順番にお囃子を演奏しながら会場に入ってきます。このとき、太鼓、三味線、笛、鉦の演奏者たちは絶妙の呼吸で演奏に緩急つけるなどのパフォーマンスを見せます。そうやって10台が勢揃いすると、各屋台の演奏が重なりすごい迫力です。お囃子の演奏だけでなく、屋台同士の連携も見ものです。例えば、運行全体の最高責任者である外交部長から「演奏やめ」の指示が出されると、先頭外交という連絡役が自分の町の屋台に伝令に走り、それを受けて各屋台は演奏をやめます。整然とした指揮系統が確立されているところは、ご覧になって感心していただけるのではないかと思います。

シシゾウ:鹿角市で戸澤さんのおすすめの観光スポットや特産物を教えてください。
戸澤:鹿角市は有名観光地の十和田湖と八幡平(はちまんたい)の間に位置しています。温泉が豊富な地域で、車で30分圏内に約50の温泉があります。有名どころでは難病に効くという玉川温泉がありますし、立ち寄り湯もたくさんあります。
食べ物のおすすめはなんと言っても秋田名物のきりたんぽですが、最近、人気急上昇中なのは鹿角ホルモンです。甘辛く味付けしたホルモンをジンギスカン鍋で焼いて食べる、知る人ぞ知る名物料理です。


戸澤:花輪ばやしは秋田県の重要無形民俗文化財になっていますが、現在、国の重要無形文化財の指定を受けるための調査が入っています。2年ないし3年後には国の指定を受けられるのではないかと期待しています。文化財としても貴重な花輪ばやしを絶やすことなく後世に伝えていくことは、地域の人間の使命だと思っています。幸い、花輪ばやしは祭り組織がしっかりしているので保存継承に不安は全くありません。花輪っ子が誇る花輪ばやしを大勢の方にご覧いただけることを願っています。
