川を渡るぼんでん
秋田県大仙市花館地区に江戸時代の嘉永年間から伝わる小正月行事。当時の花館村の名主斎藤勘左衛門が五穀豊穣や家内安全を祈って始まったとされています。秋田県内には各地で「ぼんでん」祭りが行われますが、川を渡るのはここだけ。カラフルな「ぼんでん」が川を渡る光景は、冬の風物詩として人気があります。
- 2月11日※毎年同日
- 秋田県大仙市大曲地域 花館地区~雄物川~伊豆山
■電車
JR「大曲」駅下車、車で約5分
■車
・【秋田市方面】「花館柳町」交差点で国道13号バイパスを右折、約400mで右側に臨時駐車場有り
・【大曲インター利用】「大曲」インターで降り、国道105号線を「花館上町」交差点で左折、ノートルダム大曲の前を通過し、約300mで、左側に臨時駐車場有り
- 川を渡るぼんでん実行委員会/0187-62-3012(花館公民館)
大仙市農林商工部商工観光課/0187-63-1111
※掲載された情報につきましては、独自に集積したものであり、変更されている場合もあります。
お出かけの際には各祭りの主催者へのお問い合わせや公式サイトなどで必ずご確認ください。
神様に御幣を奉納する秋田県中央部から南部に伝わる小正月行事
シシゾウ:ぼんでんとはなんですか?
三浦さん:神前に奉納する大きな御幣(ごへい)です。長さが約3メートルの細い杉の丸太棒の先端に竹の輪っかを3つとりつけ、上から色鮮やかな布を縫いつけ、色紙などで飾り付けたもので、毎年新調されます。年の初めに五穀豊穣、家内安全、町内安全を祈願し、ぼんでんを神社に奉納する風習は、秋田県中央部から南部の各地に伝承されていますが、船で川を渡ってぼんでんを奉納するのは花館地区だけです。
現在、川を渡るぼんでんは、2月11日に行われます。しかし、10年ほど前までは2月17日、さらに昭和30年代以前は旧暦の2月17日に行われていました。この日は祈年祭(きねんさい)といって新年に家内安全や五穀豊穣を祈願する神社の重要な祭礼の日にあたります。川を渡るぼんでんがいつごろ、どのような経緯で始まったのか、詳細な記録は残っていませんが、祈年祭と関係があることは想像に難くありません。ぼんでんの奉納先の伊豆山神社に残っている江戸時代後期の記録を見ると、ぼんでんと一緒に樽入りの濁り酒や大ろうそくなど様々なものが伊豆山神社に奉納されたことが記されています。おそらく祈年祭に奉納するもののひとつだったぼんでんが、いつしか祭りの中心になっていったのだと思います。
シシゾウ:ぼんでんを奉納するのはどのような人たちですか?
三浦さん:中心は大曲地域花館地区の各町内です。また、地元企業や42歳を中心とした厄年の人たちや還暦の人たちもグループを作って奉納します。ひとつのグループは十数人で、例年、15本前後のぼんでんが奉納されます。グループごとにぼんでんの布の色は異なり、勢ぞろいすると色とりどりでとても華やかです。
ぼんでんが町内の家々を回って一年の厄祓い
三浦さん:当日の朝7時ごろ、ぼんでんを奉納する男衆は揃いのはっぴを着て、それぞれの町内の会所に集まります。そこで、ぼんでん唄を歌ってから、ぼんでんを持って出発します。ぼんでん唄は代々、口伝されてきた歌で約20番あります。1曲1曲は短く、出発するときや神社の鳥居をくぐるとき、神前に奉納するときなど各場面で歌う唄が決まっています。ぼんでんの一行は道々、ほら貝を吹き鳴らしながら、ぼんでん唄を歌い、町内の家々を一軒一軒回ってお祝いとお祓いをします。33歳や42歳の厄年の男性がいる家や還暦や古希など年祝いの人がいる家、或いは新築をした家では餅やミカン、お菓子を用意して待っています。その家に来ると、男衆は厄祓いや年祝いのぼんでん唄を歌い、家の人に代わって餅まきをします。それを近所の人たちや子どもたちが拾います。この餅まきには、災厄は皆で分かち合い、災いを最小限にとどめるという意味が込められています。
自分たちの町内を回り終わると、ぼんでん一行は、雄物川(おものがわ)の対岸にある伊豆山神社に渡るため、渡船場に向かいます。渡船場の手前には伊豆山神社の一の鳥居があり、必ずそこを通り抜けることになっています。一の鳥居に来ると、男衆はぼんでん唄を歌い、ぼんでんを神輿のように「ジョヤサ、ジョヤサ」の掛け声とともに激しく上下に揺すります。また、他の町内とかち合ったときには激しくもみあいます。
午前10時ごろからぼんでんが渡船場に到着しはじめ、午前11時までにはすべてのぼんでんが渡りきります。渡船場には毎年2000人以上の人が見物に訪れます。観客の前で、町内ごとにぼんでんとぼんでん唄が披露され、餅まきが行われます。伊豆山神社主催の餅まきもあります。また、前厄にあたる41歳の同級生グループが来場者に甘酒やそばをふるまうのが恒例になっています。
シシゾウ:川はどのようにして渡りますか?
三浦さん:二艘連結した川船に、ぼんでんと男衆が乗り込みます。船には船頭も乗り、両岸に張り渡された金属製のロープをたぐって、約5分かけて川を横断します。雪が少ない年もありますが、ぼんでん奉納の時期は大抵雪が積もっています。雪景色を背景にあざやかな色彩のぼんでんが静かに川を渡っていく光景はとても情緒があります。写真を撮るなら、撮影用にぼんでんを2~3本一緒に船に乗せるときがシャッターチャンスです。色とりどりのぼんでんが川面に映えて、とてもきれいです。
山頂の社殿の中でぼんでんと男衆が激しくもみあい
三浦さん:川を渡るときばかりが注目されますが、山の上にある伊豆山神社にぼんでんを奉納するところもこの祭りのもうひとつのみどころです。一般の方も神社に参拝することができるので、ご覧いただけます。
伊豆山神社は伊豆山の山頂にあります。船を下りて10分ほど歩くと伊豆山の登り口で、神社の二の鳥居があります。そこを通り抜けるときも、一の鳥居と同様、ぼんでん唄を歌います。伊豆山の標高は約200メートルとさほど高くはありませんが、勾配はかなり急です。夏だと山頂まで30分ほどですが、雪が積もっていると足場が悪いので1時間近くかかります。
伊豆山神社の本宮は山頂に建てられた社殿としては規模が大きく、大人の男性が40人以上余裕で入れます。天井も高く、ぼんでんをまっすぐ立てた状態で中に入れることができます。一行は社殿に着くと、全員がぼんでんと一緒に中に入り、奉納のぼんでん唄を歌い、5分近く激しくもみあいます。
ぼんでんと一緒に恵比寿大黒俵(えびすだいこくだわら)という餅を詰めた俵を奉納する町内もあります。この奉納も見もので、俵の上に男衆が乗り、その俵を皆で担いで10分以上激しくもみあいます。すべてのグループの奉納が終わると、本宮の前にぼんでんがずらりと並べられます。
40年以上前は、花館地区の町内から川向いの伊豆山神社に行くには、渡し船しか交通手段がありませんでしたが、現在は上流に橋が架かっています。興味のある方は川を渡るところだけでなく、神社に奉納されるところまでご覧いただきたいと思います。
大曲は全国屈指の花火のまち
シシゾウ:大仙市でおすすめのスポットや特産物を教えてください。
三浦さん:川を渡るぼんでんが行われる花館地区のある大曲地域は花火の町です。毎年8月に雄物川河川敷で開催される「大曲の花火」こと「全国花火競技大会」は全国の一流花火師が顔を揃える全国トップレベルの競技会です。川を渡るぼんでんのときにも渡船場で花火が約50発打ち上げられます。花火が上がると大曲の人間は気分が高揚します(笑)。
花館地区を流れる雄物川の支流の玉川(たまがわ)では秋になるとサケ漁が営まれます。サケ漁の歴史は古く、江戸時代に藩から漁業権をもらったことに始まります。現在は主に資源保護のための採卵が目的で漁が行われます。特産物では花館地区で農家の副業として手作りされてきた昔ながらのひきわり納豆が人気です。
ぼんでんの静と動をぜひご覧ください
三浦さん:秋田県南部の各地で小正月にぼんでん奉納行事が行われますが、昔ながらの渡し船で川を渡るのは、ここ大曲の花館地区だけです。ぼんでんが川を渡っていく場面を“静”とすれば、山頂の社殿の中でぼんでんと男衆が激しくもみあう場面は“動”です。静と動の両方が見られるのは価値があると思いますので、花館地区のぼんでんをぜひご覧になりに来てください。
※祭り紹介者 川を渡る梵天奉献会 会長(伊豆山神社 宮司) 三浦 利規(みうら としのり)さんにお応えいただいたインタビューをもとに、記事をまとめています。