シシゾウ:青森ねぶた祭はいつごろ始まったのですか?
高崎:ねぶたの発祥については、征夷大将軍の坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が戦場で敵を油断させるために使った人型の大灯籠をルーツとするという伝説や、七夕の灯籠流しをルーツとする説など諸説あります。いずれにしても、ねぶたは灯籠が発展したもので、年に一度、皆で盛り上がれる場として、現在のように盛大な祭りに成長していったのではないかと個人的には思っています。ねぶたは青森県の各地で行われていて、祭りの数は40以上になるはずです。
シシゾウ:高崎さんがあおもり市民ねぶたでなさっている扇子持ちは、どういう役ですか?
高崎:ねぶたは曳き手、お囃子、ハネトなど、大勢のメンバーで運行します。そんなねぶたをひとつのオーケストラに例えると、指揮者にあたるのが扇子持ちです。扇子持ちは、ねぶたがスムーズに運行するように統制をとって指示を出します。指揮者は指揮棒で指示をしますが、扇子持ちはその名の通り、扇子を振って曳き手のリーダーに指示をします。指示を出すのにマイクを使うところもあるようですが、あおもり市民ねぶたでは、昔ながらに扇子とアイコンタクトだけで合図をします。
扇子持ちが運行で考えるのは、ねぶたという作品をいかに魅力的に見せるか、いかにお客様に楽しんでもらうか、そして、ハネトの皆さんに気持ちよく跳ねてもらうかということです。そのため、状況に合わせてねぶたの動きを演出します。
シシゾウ:青森ねぶた祭のみどころはどこですか?
高崎:高さ5m、幅9m、奥行7m、総重量4tという巨大なねぶたはそれだけでも十分に迫力がありますが、ねぶたがまるで生きているかのように動いて、それぞれのねぶたのテーマをいきいきと表現するところです。ねぶたがどれだけ素晴らしくても、単調にまっすぐ進むだけではその魅力は発揮できません。迫力を出すために動きに緩急をつけ、観客のほうに迫っていって、観客席のギリギリ直前でスピードを上げて回転させたり、沿道で見ている方々にねぶたの表情をしっかり見ていただくために、ねぶたを前傾させて観客席に向かっていったりします。このようにねぶたの動きにはひとつひとつに意味があります。回転ひとつとっても、ねぶたのテーマを生かす配慮があります。ねぶたは大体、人形が2体登場するのですが、例えば左側に主人公、右側に敵役がいるとすれば、主人公が敵を追う形になるように時計と反対回りに回ります。
シシゾウ:道幅の広さで、ねぶたの動きは変わりますか?
高崎:ねぶたの運行コースで一番広い国道4号は片側3車線、一番狭い新町通りは片側1車線です。それだけ道幅が違えば当然、動き方は変わってきます。道幅の狭い新町通りでは、ねぶたは動きとスピードがどうしても制限されます。だからこそ、コンパクトに変化をつけて動かすというテクニックのみせどころで、扇子持ちと曳き手の阿吽(あうん)の呼吸でねぶたを動かすところに注目していただきたいと思います。対照的に、広い国道は曳き手のパワーとスピードのみせどころです。私の場合は、併せてテクニックも見せたいと思い、わざと蛇行して道の端に寄せて、信号機や標識、街路樹すれすれのところを通らせるという見せ場も作っています。
シシゾウ:あおもり市民ねぶたで、ここは注目してほしいというところはどこですか?
高崎:参加者は若い人からご年配の方まで心の底まで楽しんでいるところです。また、ご覧になる方も全員一緒に楽しんでもらい、できれば一緒に跳ねてもらうことを目指してやっているので、お囃子の子どもからハネトの周りでロープを持つロープ持ちに至るまで全員で「ラッセラー、ラッセラー」と掛け声をかけたり、「跳ねろ、跳ねろ」とハネトに声援を送ったりして運行を賑やかに盛り上げています。そういうところはテーマパークのキャストとゲストの関係に似ているかもしれませんね(笑)。
シシゾウ:2010年のあおもり市民ねぶたの抱負は何ですか?
高崎:2009年は若手ねぶた師の方が、閻魔(えんま)様を題材にした素晴らしいねぶたを作ってくださったので、それを皆さんに見ていただきたくて、いいねぶたにしようと皆で頑張ったおかげで満足の行く運行ができました。完全燃焼できたことで2010年につながる手ごたえと自信をメンバー全員が持てたと思います。そこで今年は、多くの市民の方にハネトとして参加していただけるようにするという毎年の抱負に加え、運行で上位入賞することを目標にしたいと思っています。あおもり市民ねぶたは若い団体ですが、ベテラン、中堅、若手のバランスがよく、連携が年々スムーズになってきているので、十分入賞を狙える段階まできているのではないかと思います。2010年のあおもり市民ねぶたにご期待ください。
シシゾウ:青森市で高崎さんのおすすめの観光スポットや特産物を教えてください。
高崎:ねぶた関連でおすすめは、5月のゴールデンウィーク頃から各団体がねぶた作りをする制作小屋が集まった、ねぶたラッセランドです。制作風景は一般に公開されていて、案内をするガイドさんもいます。制作現場を見て、ねぶたに関わる人たちの情熱をじかに感じることによって、本番を見たときの感動がより大きくなるのではないかと思います。新しい施設として、2011年1月には、ねぶたの展示をはじめ、ねぶたを体感できる文化観光交流施設『ねぶたの家 ワ・ラッセ』がJR青森駅のそばにオープン予定です。
また、青森名物として最近話題になっているのは、七子八珍(ななこはっちん)です。これは、青森近海でとれる食材を集めてPRのために登録商標をとったものです。市内の料理屋さんでは七子八珍の食材を使ったメニューを出していますので、青森市にお越しの際にはぜひご賞味ください。

高崎:青森各地で行われるねぶたで一番有名なのは、大型ねぶたの出る「青森ねぶた祭」ですが、最近は、地域の大人たちがねぶたを手づくりして子どもたちと曳き回すという、昔ながらの地域ねぶたや子どもねぶたが各町内会で復活してきています。おそらく100ヵ所近くで行われているのではないでしょうか。私自身を振り返ってみると、出身がねぶたの盛んな地域で、子どもの頃、町内のねぶたでお囃子をした経験からねぶた好きになっていったように思いますので、今の子どもたちにも町内のねぶたに大いに親しんでもらいたいと思います。将来、そういう子どもたちが大型ねぶたの運行に参加してくれれば、本当に嬉しいですね。