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江戸時代、「勝沼や馬子も葡萄を喰いながら」と詠まれたぶどうの名産地・山梨県甲州市勝沼町の大善寺で毎年5月8日に行われる「藤切り祭り」。藤つるを持ち帰ると1年無病息災といわれ、藤つるをめぐっては激しい争奪が行われる奇祭です。
大善寺の井上哲秀住職(59)に「藤切り祭り」の見どころをお聞きしました。 |
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大善寺
井上哲秀住職 |
スタッフ:「藤切り祭り」はどのような行事ですか?
井上:「藤切り祭り」は約1300年前、修験道の開祖・役(えん)の行者が金峰山(きんぷさん)で村民を苦しめた大蛇を退治した故事に由来しています。高さおよそ5.3メートルのご神木に大蛇に見立てた藤つるを吊るします。修験者がご神木に登り、藤つるを切り落とし、大蛇を退治するのです。ご神木の下で待ち構えている人たちは、切り落とされた藤つるを奪い合います。
スタッフ:大蛇に見立てた藤つるはどれくらいの長さですか?
井上:30から35メートルあり、それを7回半巻いてとぐろ状にします。 そして竹に赤いキレを巻いて大蛇の長い舌と角(つの)を2本作り、藤つるに差します。大蛇といっても角があるので、龍にも見えます。また、ご神木の上から3本の藤つるを垂らし、さらに藤つるで縛って19段のはしご状にします。大蛇を切る修験者は、この藤つるのはしごで上に登るのです。3本の藤つるは修験者の「結袈裟(ゆいげさ)」、また19という数字は
役の行者が開いた修験道の霊場の数を表しています。
※結袈裟(ゆいげさ)・・修験道の山伏がつける袈裟(けさ)。細長いきれ地3筋を緒で結んで連ね、ところどころに菊綴(きくと)じをつけた輪袈裟(わけさ)。〔大辞泉より〕 |
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スタッフ:藤つるを切り落とす前に行事などはありますか?
井上:朝10時からは藤つるで作った大蛇に魂をいれて、ご神木に吊るす「天狗祭り」が行われます。夕方頃から修験者たちによる作法が稚児(ちご)堂で始まります。剣を持って舞う“ハッポウキリハライ”、修験者たちが背負う「笈(おい)」を渡す“笈渡しの儀”、そして東西南北と鬼門の方向に矢を放つ“法弓”など、修験道の一連の作法が行われます。
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井上:修験道の作法が終わると、修験者たちはお堂の前に行きます。お堂の前には、3つの石があります。白根三山(シラネサンザン)を表したもので、修験者たちはこれを何度も飛び越えます。山を越え、谷を越え、大蛇を退治に向かうという物語の始まりです。ある修験者たちのグループが大蛇退治に向かいました。しかし大蛇があまりにも凶暴だったため、命からがら逃げ帰ってきます。その話を聞いた役の行者たちのグループが退治に向かおうとしたところ、「あんな大蛇はとても退治できない」と帰ってきた修験者たちが言います。役の行者は「大丈夫」と答えるものの、それでも修験者たちは引き止めました。そこで役の行者は、「そんなに止めるなら“法力(ほうりき) ”比べをしよう」と提案します。修験者たちは3つの石の前で力比べを始めます。法力比べは役の行者の勝ち。負けた修験者たちは「それだけ法力があれば大丈夫でしょう。我々は大蛇を退治するために祈願をしましょう」と護摩を焚きます。これは煙で大蛇をいぶりだすという意味があります。そして役の行者がご神木に登って、藤つるの大蛇を切り落とします。
※法力(ほうりき)・・・1:仏法の威力。仏法の功徳の力。2:仏法を修行して得られた不思議な力。〔大辞泉より〕
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井上:大蛇に見立てた藤つるが切り落とされたら、ご神木の下では大争奪戦が始まります。いちばん競争が激しいのは大蛇の頭です。たくさんの人が頭に群がるので、その様子も見どころです。
スタッフ:大蛇の頭を獲得するコツはありますか?
井上:まずは大蛇が落ちてくる場所を予測して、近くに陣取ることですね。近くといっても真下は危険ですから、避けてください。そしてグループを組むことです。グループで連係して大蛇の頭に向かうと有利です。一人だけではなかなか難しいものがあります。
スタッフ:藤つるを獲得したら、どのように切り離すのですか?
井上:昭和40年代までは、下で待ち構える人たちはのこぎりや、あいくちなど刃物を持っていました。時には血を流しながら取り合うこともあり、危険なので刃物の持込を禁止しました。今では、大蛇に見立てた藤つるには事前にのこぎりで切れ目を入れているので、刃物を持っていなくても手で切り離すことができます。また硬くて切れない場合は、ご神木の下で20~30人の地元消防団の方がのこぎりを持って待機していますので、彼らが切ってくれます。 |
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スタッフ:大蛇の頭の部分を取れなかったら、ご利益がないのですか?
井上:頭以外の胴体、尻尾などでも、藤つるならば同じです。また身の軽い人ならば、藤つるのはしごを登って、上から垂らしている3本の藤つる、あるいは19段の藤つるのはしごそのものを取るのもお勧めです。
スタッフ:ご神木に登っても差し支えないのですか?
井上:修験者が大蛇に見立てた藤つるを切り落とすまでが行事なので、切り落とした後ならば、ご神木に登っても差し支えありません。ただし登ったあと、はしごの下の部分を先に切り取られてしまうと、上から降りる手段がなくなるので、気をつけないといけません。大蛇以外の藤つるには、事前にのこぎりで切れ目を入れていないので、長い藤つるを手に入れることができるかもしれません。長いものを持ち帰った人は、切って友人たちと分けあっています。藤つるは家の神棚にお供えしてください。 |
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スタッフ:「藤切り祭り」を見物に来た際、立ち寄って欲しいところなどありますか?
井上:大善寺の近くに今は使われていないJRの古いトンネルを勝沼町が譲り受けて改装した「トンネルワインカーヴ」というワイン貯蔵庫がります。このトンネルは明治時代に作られたレンガ積みで、長さは1100メートルあり、およそ100万本ものワインを貯蔵することができます。また明治時代の駅舎を模したレトロな雰囲気な「トンネルワインカーヴ観光案内所」があり、観光客もワインカーヴ内を見学することができます。鉄道トンネルをウイン貯蔵庫に改装したものは、この勝沼以外ほかにない珍しいものだと思います。
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